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津地方裁判所 昭和35年(ワ)135号 判決 1964年5月28日

原告

畑本健之輛

右訴訟代理人弁護士

小林淳三

高須宏夫

被告

富士重工業株式会社

右代表者代表取締役

吉田孝雄

右訴訟代理人弁護土

関谷記

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

原告は「被告は原告に対し金三百万円及びこれに対する昭和三五年一〇月一五日からその支払のすむまで年五分の割合による金員を支払うべし、訟訴費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

第二  原告の主張

一  原告は別紙その一記載のとおりの登録第四二三、一三八号の実用新案権(その内容は甲第一号証記載のとおり)を有する者である。

二、被告はスクーター(ラビツト号)その他の軽自動車類の製造、販売を業とする株式会社であるが、被告は昭和三二年初めより自社製品であるラビツトスクーター各種の一九五七型以降の製品の全部の主座席及び補助座席用シートに原告に無断で原告の有する本件実用新案権の登録権利範囲と全く同一若しくは極めて類似した製品すなわち「多数の通孔を有する底板上に下面に多数の盲孔を有するラテイツクススポンジを載置し、右スポンジの外周を上面用及び周面用両ビニールレザーで被覆し、その接合部たる上端縁に突片付ビニールパイプを介装縫着しその周面用ビニールレザーの下縁を底板に止着せしめた」構造を有する製品を自社で製造して取り付け、以つて原告の本件実用新案権を侵害していたことが昭和三四年初めごろ原告側に判明したので、原告は昭和三四年二月六日付書面を以つて、被告に右製品の製造を即時停止するよう要求したが、被告は不法にもいぜんとして右権利侵害の製品を製造販売し、昭和三四年七月に至つて漸く右各シートの構造の設計変更をしたが、結局被告が前述のように昭和三二年初頭から同三四年六月までの間にラビツトスクーター各種の主座席及び補助座席用シートとして製造し販売した製品は明らかに本件実用権を侵害するものであり、右侵害については昭和三四年二月六日付書面が被告に到達した以前は被告の過失により、それ以後は被告の故意によるものというべきであるから、被告は原告に対し右新案権を侵害されたことにより原告の被つた損害を賠償する義務がある。

三、ところが被告が右期間内に製造したラビツトスクーター各種の台数は(イ)軽自動車に属するもの合計五九、六四四台第二種原動機付自転車に属するもの合計五七、〇七八台であり、従つてそのシート箇数は(イ)の主座席数は五九、六四四箇、(ロ)の主座席数は五七、〇七八箇である。

四、実用新案権者は、右権利を使用する者からその使用の対価として使用料を受けとる権利があることはいうまでもなく、通常右の権利使用料は、その権利を使用して製造した製品の販売価格の三%ないし五%が妥当であり、慣習でもあるから、原告としては右権利を使用する者から少くとも右製品の販売価格の二%の使用料を受領する権利を有する者であるところ、被告は前記のように本件実用新案権を無断で使用していたのであるから、原告は右使用料相当額の得べかりし利益を失つことによる損害を被告に対し請求する権利がある。

五、ところで右主座席用シートの販売価格は(イ)(ロ)共に一箇一、五〇〇円ないし一、四〇〇円で、原告の使用料相当額はその二%すなわち主座席一箇につき二八円であるから、これに(イ)(ロ)の製造箇数を乗ずると、三、二六八、三一六円となる。これが使用料相当額で原告の得べかりし利益喪失による原告の破つた損害であるから、被告は右損害を原告に賠償する義務がある。

六、よつて原告は被告に対しその内金三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三五年一〇月一五日からその支払のすむまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七、被告の主張に対し、本件実用新案権の権利範囲、被告の製品が右新案権を侵害していること右新案権が新規性を有することについての詳細は別紙その二、その三記載のとおりである。

第三  被告の主張

一、原告主張事実中第一項の事実は認める。

第二項の事実は被告が原告主張のとおりの業を営んでいること及び原告主張の期間にラビツトスクーター各種の主座席及び補助座用シートを作成したことは認める。その余は否認する。

第三項の事実は軽自動車に属する主座席用シートの製品の箇数が原告主張のとおりであることは認める。その余は否認する。

第四、第五項の主張は争う。

二、被告の製造に係るラビツト号スクーターに取りつけた主座席及補助座席シートは原告主張の本件実用新案権の権利範囲と全く異なり少しも右新案権を侵害していない。

すなわち原告は、本件実用新案権の権利範囲に属する「(イ) 多数の通孔を有する底板上に、(ロ) 下面に多数の盲孔を有するラテイツクススポンジを載置し、(ハ)該ラテイツクススポンジの外周を上面用及び周面用両ビニールレザーにて被覆し、(ニ) その接合部たる上端縁に突片付ビニールパイプを介装縫着し、(ホ) その周面用ビニールレザーの下縁を底板に止着せしめた」構造を有するシートを被告が昭和三二年初頭から昭和三四年六月まで製造販売したというのである。

三、しかしながら被告が右期間内に製造販売した「主座席用シート(S六一型、S一〇一型、S七二型、S八二型、S二〇一型)は次のような構造を有するもので原告の主張する構造とは著しく相違している。

すなわち(イ)数箇(二箇ないし五箇)の通孔を有する底板上に(ロ)下面に多数の盲孔を有するフオームラバー(原告主張のラテイツクススポンジ)よりなるシート主体を載置し(ハ)各ビニールレザーの接合部にビニール押出玉縁を介装縫着し、(ニ)ビニールレザーの外皮の下周縁を底板の周辺に止着した構造である。

従つて被告の主座席シートは次の点において本件実用新案権と相違している。

1  原告は「多数の通孔を有する底板」と主張するけれども被告のそれは「数箇の通孔を有する底板」である。

2  原告は「ラテイツクススポンジの外周を上面用及び周面用両ビニールレザーにて被覆し」というけれども被告のそれは「上面側面、前面、後面の三部片からなるビニールレザー外皮で被覆し」ている。

3  原告は「その接合部たる上端縁に突片付ビニールパイプを介装縫着し」というが被告のそれはその接合部が上端縁のみではない。

4  原告は「周面用ビニールレザーの下縁を底板に止着せしめた」というけれども被告のそれはビニールレザー外皮が三部片からなる底板に止着するのは周面用ビニールレザーのみではない。

以上述べたように被告の主座席用シートの構造は本件新案権とは著しく異つているのである。

四、被告の製造した補助座席シートについてもこれは同様である。被告が昭和三二年初頭から昭和三四年六月までに製造販売した「補助座席シート」はシート主体にフオームラバーを使用せずスポンジゴム製の板を格子状に組み合せ接着して作られており原告の本件実用新案権とは構造が異つている。

五、被告の製造に係るラビツトスクーターの主座席用シートの構造は前記のとおりであり本件実用新案権の権利範囲に属しないことは明らかであるが、これを更に詳述すると次のとおりである。

(一)  外観構造

底板の通孔について、本件実用新案には底板に「多数」の通孔が設けてある。これに反し被告製品は「四個の通気孔と一個の点火栓用孔」又はそれ以下の通気孔を有するものである。そして本件実用新案は多数の盲孔と多数の通孔とが互に連通していなければならない構造のものである。これに反し被告の製品は数箇(五箇以下)の通孔でなければならず、これと多数の盲孔とは連通していない構造を必須としているのである。そのわけは被告製品は空気バネの原理を適用しているからである。

(二)  外皮の構成について、本件実用新案権は「家具」の部に属し、その目的とするところは所謂腰掛用椅子シートであり、被告の製品は走行用に使用するシートである。この相違は必然的に外皮の構成が異ならざるを得ないのである。

(三)  縁枠の有無について

本件実用新案においては、底板の下に縁枠を有している。これに反し被告製品はいずれも縁枠を備えていない。本件実用新案は、底板に多数の通孔を有するがため、上部からの圧力によりスポンジの盲孔内の空気は急速に該通孔より放出され、必然的に底板にまでその圧力が及んで底板の強度を弱化せしめるので、これを補強する必要上底板の下に縁枠を設けざるを得ないのであつて縁枠の存在は本件新案権の要部となつているのである。原告は縁枠は本件実用新案の要部ではないと主張するけれども、右主張は右の理由により失当である。

これに反し被告製品は底板の通孔は最大五箇に過ぎず盲孔内の空気はいわゆる空気バネの作用を営むから、上部の圧力により底板の強度弱下を来すことはなく、従つて縁枠は必要としないのである。

(四)  外皮の止着についてこの点は前述したとおりの設計上の差が存する。

(五)  作用効果について

(1) ラテイツクススポンジの盲孔の底板の通孔との関係について。原告は「ラテイツクススポンジは極めて弾力性があり、その下面に盲孔を設け、しかも底板に通孔をもつことによりスポンジ及び盲孔内の空気が底板の通孔を出入することによりこのスポンジの弾力性を一段と高める」と主張する。

しかしながら本件実用新案の説明書及び図面によれば「ラテイツクススポンジの下面は多数の盲孔を有すると共に底板に多数の通孔を設けたるを以つて、ラテイツクススポンジの伸縮に当り底板の通孔より換気して円滑に右スポンジの弾力緩衡を保持し」とあり、盲孔と通孔とは原告が主張するように弾力性を高めるためのものではないのである。これに反し被告の製品はラテイツクススポンジの盲孔内の空気が底板の通孔を出入するのを阻止して、スポンジの弾力性を更に増強せしむるのであつて、ここに作用効果上の最も大きな相違が存するのである。

すなわち本件実用新案においては、多数の通孔とあらゆる盲孔とが速通しているため、上方から圧力を受けた場合、盲孔中の空気はこれをさえぎるものがないため、たやすく散逸してしまい、次にスポンジ元の形に復元するためには空気力は全く作用せず、スポンジのみの弾力性によつて徐々に行なわれるに過ぎないのである。

しかるに被告製品は、スポンジの盲孔と連通している底板の通孔は略五箇以下であつて、多数の盲孔の口元は底板の壁面によつてふさがれているため、ここに多数の密室を形成し、上方から圧力を受けた場合、盲孔中の空気はいわゆる「空気バネ」の作用をなすことになる。この空気バネの原理を適用したところに被告製品の最大の特徴があるのであつて、このため適度のクツシヨン効果を発揮し、激しい衝撃に対しても快適に緩衡性を保持し、その復元力においてもすぐれた効果を有することは本件新案権とは比べものにならないのである。

(2) 縁枠の有無について

被告製品は原告の本件新案権と異り縁枠を必要としないことは前述のとおりであるから、重量を軽減し低廉な経費ですむわけであつて、大量生産さるべきこの種シートにおいてはこの経済性の差異は大である。

(3) 外皮の構成について

外皮構成上の差異については前述のとおりであるが、スクーターの乗用者にとつて被告製品のような縫合法は投ズレが生じない点において乗り心地を快適ならしめる利点が存する。

以上のとおり構造及び作用効果の点において両者は著しい相違があるから被告製品は本件実用新案の権利範囲に属しないのである。

六、しかのみならず被告製品の右シートの構造は、原告の実用新案出願以前において既に公知公用のものであつて一般的に使用されていたのである。

かかる公知公用に属する構造ものを製造するのは何らの制約を受けるべきいわれはなく、これを製造した被告には故意も過失も存しないことはいうまでもなかろう。

七、仮りに被告の製造したシートが原告の権利範囲に属するとしては、次のとおり争う。

八、原告の本訴請求は権利の濫用であつて許さるべきではない。すなわち本件実用新案には何らの新規性(旧実用新案法大正一〇年四月三〇日法第九六号(以下「旧法」という)第一条、第三条参照)なく審判により無効となるべきものである。

然るに旧法第二三条によれば無効の審判は、実用新案登録の日より三年を経過したときは、これを請求できないのである。

すなわち原告の本件実用新案の登録日である昭和三〇年一月二八日から三年を経過した昭和三二年一月二八日を以つて無効審判請求の除斥期間が満了し、同日以降これを無効となすべき途がないのである。

ところで原告の主張によれば、被告が原告の本件実用新案権を侵害したのは、昭和三二年初めからであるというのである。

従つて原告は本件権利侵害につき昭和三二年初めごろからこの事実を知りながら、無効審判の請求のあることをおもんばかり除斥期間の満了日である昭和三三年一月二八日の満了を以つて、本訴を提起したのであり、これは正に権利の濫用として許さるべきではない。

現行実用新案法(昭和三四、四、一三日法第一二三号以下「新法」という)第三八条においてはかかる権利の濫用を防止すべく、この点を改正して無効審判の請求について除斥期間を廃止している。

なお被告は原告の本件実用新案の権利範囲確認審判の請求を昭和三五年三月二五日特許庁になしている。

なお仮りに以上の主張が理由なく、被告製品が本件実用新案権の権利範囲に属するとしてもその損害の額は争う。

原告は権利使用料として製品の販売価格の三%ないし五%が妥当であり慣習であると主張するが、かかる慣習は存しない。

なお被告が昭和三二年初頭から昭和三四年六月までに製造したスクーターの台数のうち軽自動車に属するものは原告主張のとおりであるが、原動機付自転車に属するものは、昭和三二年四月以降一三、八一五台、昭和三三年度二四、八一二台、昭和三四年六月一七、九二一台合計五六、五五八台である。

九、以上の次第であつていずれにしても原告の本訴請求は失当である。

第四  証拠≪省略≫

理由

一、原告が登録第四二三一三八号の実用新案権を有すること及びその要旨とするところは原告主張のとおり「縁枠(1)上に多数の通孔(2)を有する底板(3)を止着し、該底板(3)上には下面に多数の盲孔(4)を有するラテイツクススポンジ(5)を載直し該ラテイツクススポンジ(5)の外周を上面用及び周面用ビニールレザー(6)(7)にて被覆し、両ビニールレザー(6)(7)の接合部たる上端縁(8)には突片(9)を有するビニールパイプ(10)を介装縫着し周面用ビニールレザー(7)の下縁を縁枠(1)に止着して椅子用シートの構造」であることは当事者間に争がない。

二、ところで被告がラビツト号スクーターその他軽自動車類の製造販売を業とする株式会社であること及び被告が原告主張の昭和三二年初めごろから同三四年六月までの間にラビツトスクーター各種の主座席及び補助座席シートを製造販売したこともまた当事者間に争がなく、右主座席用シートのうちS一〇一型は成立に争のない乙第九号証の一から四までのとおりであることは検証の結果により認められ、右S一〇一型の外にS六一型、S七二型、S八二型、S二〇一型等各種のシートが存すること及びその構造は底板の孔の個数に多少の差異があるに止まり、基本的にはその骨子はS一〇一型と同じものであることは原告もこれを争わないから、右S一〇一型主座席シートが本件実用新案の権利範囲に属するかどうかについて以下審接する。

成立の争のない甲第一号証及び鑑定の結果によれば本件実用新案は第一に底板に多数の通孔を形成せしめ、第二に多数の盲孔を有するラテイツクススポンジを右多数の通孔を有する底板上にその盲孔内の空気の吸排が可能となるように載置し(いわゆる連通させるようにする)第三に右スポンジの上面と周囲をビニールレザーで覆い、その縫合部にビニールパイプを介装縫着せしめる構造を有し、以上の三つの技術的資料を必須のものとなし、これらを結合しめて形成されているものであるが、このうち特に主要な点は、ラテイツクススポンジの盲孔内の空気が底板の通孔を通つて自由に吸排するようにしたという点にあり、右目的のため前記第二のような構造がとられているのであつてこれによつてスポンジの上下伸縮にあたり、底板の多数の通孔から換気して円滑にスポンジの強力な緩衡を保持しようという作用効果を保持せしめんとする意図を有していること以上の事実が認められる。

一方S一〇一型主座席シートは前顕乙第九号証の一から四まで、検証及び鑑定の各結果によれば、その構造は被告の主張するとおり「四箇の通孔と一箇の点火栓用孔とを有する底板上に下面に多数の盲孔を有するラテイツクススポンジを載置し、該スポンジの多周を上面及び両側面用ビニールレザーと前面用と後面用のビニールレザーにて被覆し、これらビニールレザーの接合部には突片を有するビニールパイプを介装縫着し、ビニールレザーの下縁を底板に止着してなる」ものであることが認められる。

従つて両者はその構造自体においては孔のある底板の使用、盲孔のあるスポンジの右底板上への載置、その上をビニールレザーで被覆し、その縫合部にビニールパイプを介装縫合するという三点において相共通しているわけである。

四 原告はこの故を以つて右S一〇一型は本件実用新案権の権利範囲に属すると縷々主張する。しかしながら、右S一〇一型はスポンジの多数の盲孔の殆んど大部分は底板の孔と連通せず底板に密着する如く載置されていることは検証及び鑑定の結果により認められるところである。そこでもしS一〇一型が被告主張のようにスポンジ内の多数の盲孔内の空気が外部から圧力を加えられたときに密封状態を形成し、これがスポンジの復元力を高めるためのバネのような作用効果を果たしているものとすれば、両者はその技術的思想において全く異質のものと言えるから、右のような作用効果を保有する意図下に右のような構造がとられ且つ現実に右のような作用効果をS一〇一型が有しているとすれば、S一〇一型は本件実用新案権の権利範囲に属しないと言うことができよう。

けだし、あるものが当該実用新案権の範囲に属するかどうかは、それが右新案権の内容である技術的思想に含まれるかどうかの問題であつて、当該新案権の要旨とする技術的思想の具体化の手段を均等物の置換え(材料の変換)または常用技術の転換によつて他の手段にかえることはその新案権の設計の変更としてそれが右新案権の技術的思想の具現に外ならないものである以上はその権利範囲に属するが、これに反し当該技術思想に包含されないか、ないしはこれを排斥する思想に立つものであれば、たとえ設計的には当該新案権の容易に導き出せるものであつてもその権利範囲に属さないと解すべきであるからである。

三、そこで以下S一〇一型に、右のような密封状態が現実に存するかどうか、従つてその技術的思想が本件新案権のそれと相異ると言えるかどうかについて検討する。

<証拠―省略>によればラテイツクススポンジは通常液状のゴムであるラテイツクスの中に石けんを入れて空気を吹き込み泡を生じさせ、これを凝固させ気泡状のゴムを作り、これに加熱処理をして作る(ダンロツプ法)か、或は過酸化水素を使用し、それから生ずる酸素ガスを発泡させこれを冷して炭酸ガスを通じさせ(タラレー法)て作るものであつて、右のような製造工程からも明らかなように、要するに多数の気泡を有するゴム(泡ゴム)であり、その断面部は通気性があるけれども、盲孔の表面はスキン状をしているため通気性が少く、そしてS一〇一型は底板の孔が四箇で大部分の盲孔は底板の孔と連通していないため上部から圧力を受けると瞬間的に大部分の盲孔は密封室となり、いわゆる空気バネの作用(復元作用)をなし(本件実用新案権に基く製品と被告製品との振動特性の比較試験の結果は別表<省略>のとおりでありフオームラバーの盲孔内の空気は前者においては滅衰メカニズムが殆んど参与していないのに対し後者においては滅衰メカニズムが参与して適度のクツシヨン性能を示し、両者は全く異つた効果を有していることが認められる)ていることが認められ、従つてS一〇一型を始めこれと結局は同一の構造を有する被告のシートはすべてその技術的思想において本件新案権のそれとは相異るものということができるからこれらシートはすべて本件新案権の権利範囲に属しないと解するのが相当である。

<中略>他に右認定を動かすに足りる適切な証拠は存しない。

六  原告は被告の製品は底板の孔が少なてももそれは程度の差であつて本件新案権と異質のものではなく、またラテイツクススポンジそのものの持つ通気性という性質からすれば連通していない盲孔内の空気も結局は外気と接しているわけであるから、本質的には被告の本件新案権の権利範囲に属するものである等縷々主張するけれども右主張は前述の理由により採用の限りではない。

また原告は被告製品はクツシヨン作用により底板とスポンジの載置部分との隙間から空気が出入するから空気密封室は生じないと主張するけれども証人<省略>の証言によれば、被告の製品はスポンジを相当圧縮して底板に密着させ、(場合によつてはセメダインで密着させ)その上にビニールレザーで覆い固定させていることが認められるから、底板とスポンジの接する部分から空気が出入することは考えられないから原告の右主張もまた採用の限りではない。

七  以上の次第で被告製造にかかるシートはすべて本件実用新案の権利範囲に属しないから右各シートが権利範囲に属することを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官山田義光 裁判官松本武 高橋爽一郎

別紙 その一(甲第号証)

特許庁実用新案公報(実用新案出願公告昭二九―九六四二)

公告 昭二九・八・一一

出願 昭二八・三・一八

実願 昭二八―七七一七

出願人考案者 畑 本 健之助

代理人弁理士 樺 沢 義 治

椅子用シート図面の略解

第一図は一部を切り欠ける平面図、第二図は一部切り欠ける正面図である。

実用新案の性質、作用及効果の要領

本実用新案は椅子用シートに係るものにして縁枠3上に多数の通孔2を有する底板3を止着し該底板3上には下面に多数の盲孔4を有するラテイツクススポンジ5を設置し該ラテイツクススポンジ5の外周を上面用及周面用ビニールレザー6、7にて被覆し両ビニールレザー6、7の接合部たる上端間縁8には突片9を有するビニールパイプ10を介装縫着し周面用ビニールレザー7の下縁を縁枠1に止着して成るものである。

而して縁枠1の角隔内側に補強用アングル11を取附けたるものである。

本実用新案は上述のように袋材としてラテイツクススポンジ5を使用せるの以て適度の弾力を有するのみならず長期に亘りて弾力保持し耐久力大にして又ラテイツクススポンジ5の下面に多数の盲孔4を有すると共に底板3には多数の通孔2を設けたるを以て上面及周面を通気性なきビニールレザー6、7にて被覆せるもラテイツクススポンジ5の上下伸縮に当り底板3の通孔2より換気して円滑にラテイツクススポンジの弾力緩衝を保持し尚上面用及周面用ビニールレザー6、7の接合部たる上端周縁8には突片9を有するビニールパイプ10を介装縫着せるを以て装備が比較的柔軟なるラテイツクススポンジ5を使用せるも良く上端縁の角隔部の整形を保持し得られる等実用上の効果を有するものである。

登録請求の範囲

図面に示すように縁枠1上に多数の通孔2を有する底板3を止着し該底板3上には下面に多数の盲孔を有するラテイツ

クススポンジ5を載置しラテツクススポンジ5の外周を上面用及周面用ビニールレザー6、7にて被覆し両ビニールレザー6、7の接合部たる上端縁8には突片9を有するビニールパイプ10を介装縫着し周囲面用ビニールレザー7の下縁を縁枠1に止着して成る椅子用シートの構造

別紙その二(昭和三六年九月一日附原告準備書面≪省略≫

別紙その三(昭和三八年三月三〇日附原告準備書面≪省略≫

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